Subject: 遺伝性疾患第2回

  (遺伝病の基礎と目の疾患)

新庄動物病院 院長 今本成樹

今回は遺伝というものについて 簡単に、導入部分を書かせていただいて
その後に、興味深い話題や、 「へぇ〜」という話を書いていきたいと思います。
なるべく一般の飼い主さんに紹介できるよう 雑誌への連載の内容を噛み砕き、
紹介していけたらと思います。
眼の疾患と約束してましたけど、 目の疾患は莫大な量になるので、
少しづつばらして書くことにしていきます。
ちなみに私は眼の疾患は、一番手薄な知識の部分の一つです。

「まず遺伝病の基礎です。」
なぜ第一回目で紹介しなかったんだ? と思われるかもしれませんけど、
基本の部分はつまらないので、 つまらないことを書くと誰も読む気がしないので、
今回にちょっと持ってきてみました。
だからといって読み飛ばさないで下さい。
つまらないことも色々と含みながら なるべく興味深い話題の中に混ぜながら。。。。と考えています。 頑張って読んでみましょう( ̄▽ ̄) ニヤ

『 遺伝学の基礎 』  少しだけ遺伝というものをやっていく上で、 必要なことを最小限ですけど書いていきたいと思います。 まずは基本的な遺伝の形式からです。 近いうちに毛色の遺伝の話をまた紹介したいと思います。 今回は人にも当てはまる通常の遺伝形式の話です。 全部詳細にとはいきませんけど、 犬に関係している遺伝形式についていくつか紹介していきます。

 

◎単一遺伝子病  

一個の遺伝子の異常により起こる疾患の総称です。
常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖性などになります。
常染色体優性遺伝病は、人では知られている限り、 なんと4000種類程度確認されています。
一番有名な例が、メンデルの行ったエンドウマメの優性形質の分離です。

驚くことに、そのメンデルの遺伝法則の発見からわずか二年後には
アルカプトン尿症(人の遺伝病です)が劣性遺伝として報告され、(Garod,1902)、
さらに翌年には短指症が報告(Farabee,1903)されました。
しかし、原因遺伝子の単離(どういう遺伝子が、 影響しているのかという遺伝子的な解明、
これがその遺伝子だ!という目に見える形での紹介)は、
発見から約100年たった1996年でした。

正直、近年は、遺伝病の患者さんから 異常を示している遺伝子を取り出すことに夢中になって
過熱気味という面もあります。
両親とも正常ならこのタイプの遺伝病はないのか? という考え方もあるでしょうけど、
必ずしもそうではないのです。
精子や卵子が作られるときに一番突然変異がおきやすいのですが、
放射線や抗癌剤でこれらの突然変異が起こることが確認されています。

また自然界では一定の割合で、 自然に起こるものであると考えた方がいいのかもしれません。
必ずしも100%遺伝的要因で、とは言い切れません。
ただ、これだけ乱繁殖が進むペットブームの中で、
遺伝病は見過ごすことができないようになってきています。

◎ミトコンドリア遺伝病  

ミトコンドリアに、存在する遺伝子は、核外遺伝子と呼ばれるもので
メンデルの法則に従った遺伝形式をとりません。
受精の際に精子側のミトコンドリア脱落のために
全てが母型の遺伝子から取ってくるので、母系遺伝100%です。
人の先祖をたどる際には、
このミトコンドリア遺伝というのを基本に先祖をたどることになります。
ちなみに、ゴールデンハムスターは、 一匹の雌から繁殖がスタートしたので、
全ての個体のミトコンドリアを調べても、一頭の雌のものしか出てきません。

◎多因子遺伝病  

多数の遺伝子と環境の相互作用で発症する遺伝形式。
生活習慣病と呼ばれるものが含まれているとされています。
また、生活習慣病と呼ばれるものもこれに含まれます。
身長、精神的な成長などもそうです。
体に一部に異常が出るものは ほとんどがこれではないかと考えられているそうです。
体質性の疾患、高血圧、先天性心疾患、てんかんの一部や
口蓋裂(口腔内の上の部分が裂けて生まれてくる)もこれに含まれます。

口蓋裂は悉無形質(発生するか、 しないかの二者択一。「しつむ」と読みます。)であり、
罹患か非罹患かの連続性を示さないものなので、 これに含まれるそうです。
要するに、中途半端な裂け方をした状態で生まれてくることは少なく 裂けてしまうなら、
パックリといってしまうんです。
当然口蓋裂の子を繁殖に使うのは、 好ましくないということは理解いただけると思います。
その他にも何らかの部分的異常があれば
繁殖には用いないということもご理解いただけると思います。 
ここまでがだいたい遺伝の形式をものすごく簡略化したものです。

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犬や猫だけに限らないで 生き ているものはほぼ全て遺伝子に支配されています。
遺伝の話を検索していくと、 クモの模様なども遺伝していると書いていました。
私はクモは嫌いなので、どうでもいいですけど、すごく驚きました。
まぁ、生きている個体は運命を全うすれば60%は、
遺伝子やDNA中の病気の情報が発現すると言われているので、
今後はすごく遺伝というもの、 DNAというものを知ることが重要となるでしょう。

さてさて、目の疾患の話ですけど、
恐ろしく長くなるはずの遺伝的な目の疾患を ものすごくインパクトがある形で紹介したいと思います。 まず、遺伝性疾患でなぜ「眼」なのか? なんでだろう?と思われたかもしれません。
しかし、実際に遺伝病の話をする時には、 最初に扱ってもいいくらいに、
圧倒的に遺伝性眼疾患は数が多いのです。

人の領域では、 遺伝性眼疾患は遺伝性疾患全体の1/3を占めています。
(人の遺伝性疾患全6000種類、人の遺伝性眼疾患2000種類です)
遺伝性の眼疾患は、今後獣医領域でも貴重となるでしょう。
遺伝性眼疾患はほとんどが進行性です。
飼い主さんに対してきちんとした説明と理解を求めることが重要となります。

ちなみに、あの有名なダーウィンも遺伝性の疾患について、
眼の疾患、難聴との関係などについて、「種の起源」の中で書いています。
眼の青い猫の視力障害と難聴ってものすごく関係していますよ。
今ペットショップで売られているダックスの青い眼の子を見るたびに
ちょっと心配になったりします。 「珍しい眼の色です。だから高いんです。」って、
説明してもらったことがあります。

幸い私は獣医には見えないので、
すごく丁寧に一から犬についてペットショップで教えてもらえます。
レアな遺伝性疾患の危険性のある犬種が
無知ゆえに高値で取引されているのも、悲しいことですね。

さて、話しを戻します。
犬の遺伝性眼疾患では、 眼瞼内反症、角膜変性症、白内障(若年性も含む)、
進行性網膜萎縮、第三眼瞼軟骨の反転、 低色素症、虹彩異色症などがあります。
逆睫毛(さかまつげ)だって遺伝病ってことがあるのです。
そして最近すごく注目されてるのは、 PRA(進行性網膜萎縮)というものです。
学会でも特集が組まれるほど大変な病気で、
進行性というだけあって、発症したら止める事ができません。

初期は夜盲症といってよるに目が見えにくいというところからスタートして、
よくわからないまま進行していきます。
PRAとは、視細胞の変性や異形成、網膜の萎縮を引き起こす疾患を総称して
進行性網膜萎縮(以下PRAとします)と呼んでいます。
様々なタイプがあって、犬種ごとに発症タイプも異なるし、
発症年齢にも差が出てきているということがわかっています。 (獣医の眼の学会での報告)

そのような中で、どれだけの犬種に報告があるかといいますと。。。

アイリッシュ・ウォーター・スパニエル   アイリッシュ・セッター   アイリッシュ・テリア秋田犬 
アメリカン・コッカー・スパニエル  アラスカンマラミュート  
イタリアン・グレイハウンドイングリッシュ・コッカー・スパニエル   
イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルイングリッシュ・セッター    ウィペット  
ウェルシュ・コーギー(ペンブローク、カーディガン)   ウェルシュ・スプリンガー・スパニエル  
エアデール・テリア 

オーストラリアン・キャトル・ドッグオーストラリアン・ケルピー   
オールド・イングリッシュ・シープ・ドッグ   カーリーコーテッド・レトリー バー    キースホンド 
 グレート・デン  グレート・ピレニーズ    グレイハウンド  ケリー・ブルーテリア  
ゴードン・セッター    ゴールデン・レトリーバーコリー  サモエド  シー・ズー  
シーリハム・テリア  シェットランド・シープドッグシッパーキー   柴犬  シベリアン・ハスキー  シャー・ペイ 

ジャーマン・シェパードジャーマン・ショートヘアード・ポインター 
シュナウザー(スタンダード・ミニチュア) シルキー・テリアスコティッシュ・テリ ア   
ソフトコーテッド・ウィーントン・テリア  ダックスフンドチェサピーク・ベイ・ レト リーバー  
チベタン・テリア  チャウチャウ  チワワ  狆ドーベルマン   ナポリタン・マスティフ  
ノヴァ・スコシア・ダック・トーリング・レトリーバーノルウェジアン・エルクハウ ンド   
バーニーズ・マウンテン・ドッグ バセンジー 

 ハバネーゼビーグル   ビズラ  フィールド・スパニエル  プードル  プーリー  
フラット・コーテッド・レトリーバー  ブリアード  ブリタニー   ブリュッセル・グリフォンペキニーズ  ベルジアン・タービュレン   ベルジアン・マリィノス  ポインターボーダー・コリー  
ボーダー・テリア   ポーチュギース・ウォーター・ドッグ  ポメラニアンボルゾイ   マスティフ  
マルチーズ  マンチェスター・テリア   ミニチュア・ピンシャーヨークシャ・テリア  ラサ・アプソ   ラブラドール・レトリーバー  ローシェンローデシアン・リッジバック  ロットワイラー 

以上 81種類です。
頑張って集めて、しかも「あいうえお」順に記載してみました。

これはアメリカの眼科の専門医の集団の中で言われている
繁殖に使ってはいけないくらいに遺伝的として確定されている犬種のみです。
要注意犬種は載せていません。ちょっと怖いでしょ?
ちょっとがんばりました。
そして、これらの犬種を系統図に照らし合わせてみました。
これは3月号くらいに発表する予定ですけど、少し早めに公開です。

それでね、系統図と照らし合わせたら 驚くべきことに、固まってる部分があるんです。
犬種の改良とまさにリンクしています。
要するに人が作り出している遺伝病というやつです。
それも産業革命以降に作り出された犬種に多いです。
古代からの犬種にはこの病気はないのです。
治療法として、アメリカでは遺伝子治療が試みられて いい成績を出している例もありました。
ただ、その遺伝子治療の効果は数ヶ月だったようです。

そこまで面倒な治療をして、効果が短いなら、 遺伝病なくせばいいじゃん。ってことになります。
また、PRAの確定診断には 網膜電位図という非常に珍しい機材が必要となるので、
なかなか確定診断まではたどり着けないというのが現状です。
「進行性」って名前が物語るように 現段階では、どんどん進行していく病気の一つです。
今回のまとめです。ひじょうにシンプルです。

「人間が作り出した犬種に人間が病気も作り出した。  
それを、人間が今後減らして行くことは、義務の一つではないでしょうか?」

 

 

 

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