遺伝病第3回 (血液型)
新庄動物病院 院長 今本成樹
遺伝病というものについて少しばかり書いてきました。
あまり病気という話ばかり書いても 堅苦しくなるだけですので
少し遺伝という分野から外れないよう 遺伝と少しは関係ある話を書いていきます。
「今日のテーマは血液型。ってやつです。」
そこから、遺伝病っていうのは、 どのくらい潜むかというのを 少しご理解いただけたら、、、
というその一点だけです。 パチパチ・・・・。(‘-‘。)(。’-‘)。パチパチ・・・。
日々診療をやっていううちに、 骨髄疾患や、血液疾患、腫瘍性疾患
というものに 当たることがあります。
大抵の貧血は血液の中によからぬ血液の細胞があったり、 臓器に炎症があったり、
どこかからの出血があったりで、 それが原因で貧血していたりします。
うちの病院では、 血液検査と同時に必ず顕微鏡で血液細胞を染めて、
顕微鏡で観察します。
必要ならば、臓器に細い針を刺しての細胞検査も行います。
こうすることで、予想外のものが見つかることもあります。
例えば血小板が少ないとか、白血球の中でも特定のもの、
例えば「リンパ球が多い」とか、「形が変」とかです。
臓器では、正常な組織以外のものが見つかれば
たいていは、臓器の炎症か、腫瘍です。 そういった場合には、
追加検査や治療に入ります。
そして、輸血するという事に行き当たることがあります。
動物の輸血? と思われるかもしれませんけど、
私は比較的輸血をするほうの獣医なのかもしれません。
なかには「輸血なんかしない!」と言う先生もおられます。
まぁ、輸血は正直時間稼ぎ的な面もあり、
対症療法(症状に対しての対処のみで根本的な治療にはつながっていません。
) の一つです。その時間の中で薬の効果をきちんと出すことで、
治療が進み、今後、健康時に近い状態を維持できるということもあるので、
必要に応じて輸血を行います。
「輸血って、どうするの?」 と思われるかもしれません。
動物の輸血ってなじみがないでしょ?ということで、 今回は輸血のお話です。
当然遺伝性の話と絡んできます。
赤血球の表面には、血液型を決める特殊な物質があります。
輸血する時に違う型の血液を入れたら、その特殊物質同士が反応して、
外部からきたよそ者赤血球を破壊します。
そういう事されたら、輸血やっている意味がないんです。
人でもそうですけど、輸血前には検査ってやりますよね。
動物でもやるんです。
犬の場合には正確に分けたら10種類以上の血液型になります。
それをいちいち適合させることもないらしく、
輸血交差適合試験というのを行います。
「お互いの血が壊しあわないか」を見るのです。
また、最近では、犬の血液型の特定のタイプのみを行う血液検査が できるようになっています。
私の病院でもできます。 犬の血液型のタイプは複雑なので、
今回は猫の話をしていきます。猫はかなりシンプルです。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
猫の場合には、A型、B型のみです。
で、たまに混ざり合った「AB型」がいます。
ただ、A型が優勢、B型が劣性遺伝するので
ABとなるのは、どうして起こってるのかは不明です。
さてさて、はじめの方で、 シベリアンハスキーのように狭い地域で繁殖された犬には
遺伝病が多くなっている。という話を書きました。
猫って特に狭い地域での繁殖が進んだ動物です。
『これから行う話は、狭い範囲でのみの繁殖をすると、
危険ですよ!っていう意味も入っていますので、
猫の話だからって言って読み飛ばさないで下さい。』
特にこれだけの数が出回っているダックスの場合には、
地域ダックス状態で繁殖を無計画に広げていくと、
遺伝病のキャリアーとなることが十分考えられます。
ちなみにダックスは年間15万くらいは、 新しく生まれてるそうです。
ダックスの遺伝病には、今後私は注意をはらう必要があると思いますよ。
進行性の網膜萎縮でもそうだし、
他にも新しいものが見つかる可能性も十分考えられます。
さて、話しを猫に戻します。
猫の種類によっては、 ほとんどA型の猫ばかりという種類もいます。
したがって、 獣医師のなかにも猫の輸血は何もしないで入れてオッケー! という先生もいました。 ただ、私も雑誌に書いていて、それでは危険ということで、
ちょっとデータを出して書いてみたのです。
案外反響がよくて驚きましたけど、 逆にえぇ?今までなにやっていたの?って感じもありました。
危険な輸血例もいくつか耳にしてきています。
血液を入れるって、相当大変なことなんです。
それでね。猫の血液型です。
(なんかのテレビ番組みたいにずっと引っ張っていますね)
猫の中でも、 ブリティッシュショートヘアーや、 デボンレックスという種類は
半分くらいがB型だったりします。
逆に、オリエンタルショートヘアーでは、
B型の猫はほとんど知られていません。
メインクーンでは、1〜5%がB型。 アビシニアンや、スコティッシュフォールド、
ペルシャやジャパニーズボブテイルでは、 10~20%がB型だそうです。
さて、これだけ猫種に応じてばらつきがあるのに、
輸血は猫は大丈夫なんていうのはまずおかしいでしょう。
変えていくべきです。
犬でも犬種に応じて病気に対しての反応は 異なることだってあるのです。
犬、猫という大きなくくりで、 考えるのはおかしいでしょう。 と思うわけです。
あくまでこの血液の話はその一例です。 あー、また話がそれています。
それでね、全体の1%がB型。
それって、1%の確率で、発現するものと考えてください。
1万頭いたら200頭あまりは、 それのキャリアー(保有者)になります。
そして10%発現するというものの場合には、 約半数がそのキャリアーとなるようです。
『日本では、大型犬の40%に股関節疾患が認められます。』 保有率はどのくらいでしょ?
それはそれは、恐ろしいものです。
誰がこんなことをしたんだ?という事になります。
遺伝病というのを理解するのに、 血液型の話を持ち出しましたけど、
これが一番身近に遺伝するということを 実感できるものですから、、、、
適当に輸血するということは本当に怖いことですし、
この血液型は新生児の溶血にも関係しています。
今あげたデータから見ても、 遺伝するものというのは本当に怖いものでしょ?
実際、繁殖の際に猫では 血液型を考えていかないといけません。
そして、新生児溶血の際には、 適切な処置を施さなくてはなりません。
医学の進歩とともに分ってきたことがたくさんあります。
『飼い主さんもなるべく多くの情報を理解して、
納得いく治療がうけられるように獣医師と戦ってください。
獣医師はそんなことくらいでは
当然負けることはない情報量やネットワークを持っています。
ただ、お互いの信頼関係の上で、 そういうディスカッション(議論)は、おこなってください。』
それに対し 露骨に嫌な顔する獣医師っていうのは、、、まずいでしょう。
獣医師は1時間でも2時間でも、
それだけ一生懸命な飼い主さんのためになら、 戦いましょう!と、なるはずです。
500円とか、1000円とかの再診料には、
これらの相談料などもほぼ入ってる病院がほとんどです。
それで獣医師使えるなら使ってください。
弁護士さんは30分10000円です。
獣医師は無制限で1000円程度でしょ?
遠慮しないで 困ったらどんどん相談していくべきだと私は思います。
今回は遺伝の話はほとんどなかったですね。
次回は、脱線しないように書きます。
でも、こういうことも書きたかったので、、、
|